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大地形について、「変動帯」と「造山帯」の両方の用語を用いて解説しているのはなぜですか。

 1960年代のプレートテクトニクス登場後も、弊社の教科書・教材では、大地形について、造山帯の用語を残したうえで、変動帯と造山帯の両方の用語を用いて解説しています。これには次のような背景があります。
 プレートテクトニクスが登場し、変動帯という用語も現れましたが、それよりもずっと以前に、学校現場・研究現場では、地向斜理論にもとづく造山運動や造山帯という用語が定着していました。プレートテクトニクスの登場後は、この理論に合わせて、すでに定着していた造山運動や造山帯という用語の“意味”(役割)を見直すことが(おもに地質学分野の研究者によって)なされてきました。しかしながら、もともと異なる見方・考え方をもとにした用語であるため、変動帯と造山帯の区別が明確でないという問題も生じました。
 このような課題を解決するため、弊社では40年以上前、造山帯という用語を用いず、地形の起伏を唯一の指標として大地形を整理した教科書を発行したことがあります。しかし、地形の成因についての説明が不十分であったことなどから、当時は多くの先生方の理解が得られず、こうした整理の仕方は定着しませんでした。
 変動帯と造山帯の用語の調整をはかる一方で、ヨーロッパやアメリカ合衆国の地理教科書の動向についても並行して調査を進めてきました。調査の結果、 現在でもストレーラーの『PhysicalGeography』など、欧米の大学レベルの「地形学」の教科書の多くでは、プレートテクトニクスにもとづきつつ「造山運動(orogeny)」や「造山帯(orogenicbelt)」という用語を使って大地形を解説していることが明らかになりました。これは、欧米の地理教科書でも大地形を地質と関連させながら学習する構成になっているためです。
 変動帯はプレートテクトニクスを理解するために重要であり、造山帯は地形の形成過程や地質の分布、鉱産資源の分布を理解するために有用です。それぞれの用語の有用性に加えて、歴史的経緯や外国の地理教科書の動向などを考慮し、用語の扱いについて慎重に議論を重ねてきました。その議論をふまえ、弊社の教科書・教材では、大地形の学習について、変動帯で説明されるプレートテクトニクスを前提に構成しながら、造山運動や造山帯の用語や考えも生かした構成・記述を採用しています。