〈帝国書院 取材班〉
 2016年9月,帝国書院取材班は東欧に位置するハンガリーとルーマニアに向かった。ハンガリーはアジアにルーツをもつマジャール民族によって建国された国であり,文法や名前の呼び方に日本と共通する部分が多いのが特徴だ。ここでは,ハンガリーの美しい風景や人々の生活・文化のようすを取材した一部を紹介したい。

ゲッレールトの丘から見下ろすドナウ川

●ドナウの真珠(写真
 日本からフランクフルト経由で約14時間。ハンガリーに降り立ってまず訪れたのがここ,「ドナウの真珠」や「東欧のパリ」ともいわれる首都ブダペスト。ゲッレールトの丘から見下ろせば,ブダ地区とペスト地区の真ん中をゆったりと流れる雄大なドナウ川に目を奪われる。日の光を浴びてキラキラと輝く水面はまさに真珠。セーチェニ鎖橋をはじめとする三つの橋で結ばれた川の両脇に広がる伝統的な街なみは,数々の苦難を乗り越えてきたハンガリーの歴史を感じさせてくれる。ブタペストには世界で一番美しいといわれている国会議事堂や世界遺産に登録されている王宮や橋など,歴史的建造物が多い。

●中央市場 movie1
 続いては,ブダ地区の真ん中にある中央市場。市場は2階建てのアーケードになっており,1階には肉や野菜,果物などの生鮮品とみやげ品,2階には民芸品などが売られている。この中央市場には観光客だけでなく,地元の人も新鮮な食材を求めて買い物に来るという。買い物を楽しむ人やなじみの店主と会話を交わす人…市場は活気に満ちあふれている。
 店先に色鮮やかな野菜がところせましと並べられている光景はもの珍しく,見ているだけでわくわくする。ハンガリー料理に欠かせないパプリカに にんじん,また,フォアグラを売る店も多い。ハンガリーではガチョウやアヒルのフォアグラが有名で,日本で買うよりずいぶん安く手に入る。しかし,地元の人が食べることはあまりなく,おもに輸出品として生産されているようだ。

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●ジプシーディナー movie2
 市場を堪能したあと向かったのは,「ジプシーディナー」とよばれるハンガリー観光の目玉の一つ。ジプシー(ロマ)の人々の演奏を聴きながらハンガリー料理を楽しむというものだ。ハンガリーやルーマニアにはジプシーとよばれるロマの人々がいる。ロマの人々は独特の音楽をもち,楽団として活躍する人も多い。この日訪れたのはブダペストの郊外にあるレストラン。店内は欧米系の観光客で大にぎわいだった。ロマの人々が奏でる軽快な音楽にあわせてハンガリーの伝統的な踊りが披露される。男女ペアのものや男性・女性だけのものなど,さまざまな踊りが続く。
 ちなみに,動画の前半に映っているぬいぐるみは,舞台を見に来ていた小さな女の子のものだ。音楽と踊りに夢中になってふりまわしていたのだ。ぬいぐるみのゆれぐあいからディナーがいかに盛り上がっていたか伝われば幸いだ。

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 ※フラッシュの点滅にご注意ください。  
   
1 ハンガリーの家庭料理グヤーシュ
 
 
ハンガリー

●ハンガリーのお宅訪問 movie3
 そして,今回の取材のメインであるお宅訪問!この日おじゃましたのは,ブダペスト郊外の閑静な住宅街に,家族3人で住むコヴァーチさんご一家。夫のチャバさんは商社,妻のビクトリアさんは旅行会社に勤務している。1人息子のマーチャーシュくんは元気な小学2年生で,リコーダーを吹きながら出迎えてくれた。ちなみに,マーチャーシュとは,15世紀半ばにハンガリー帝国最大の版図を実現した当時の国王マーチャーシュ1世からとった名で,ハンガリーによくある名前だという。
 さて,コヴァーチ家の3LDKのアパートはそれほど広くはないものの,2階建てだ。キッチンやリビングには家族写真やハンガリー風の小物が並べられており,家族3人の生活を楽しんでいるようすが伝わってくる。そして,今回動画を紹介するのはマーチャーシュくんの子供部屋。ご両親のトレーニングルーム(こんなのアパートにあっていいのだろうか)と寝室の間にあるその部屋は,学校の勉強道具や本,お気に入りのキャラクターグッズがたくさんあって,大人からみてもうらやましいほど素敵だ。ふと壁に目をやると「柔道」と書かれた賞状がずらり。なんとマーチャーシュくんは学校の課外活動で柔道を習っており,大会でとった賞状だという。日本文化がこんなところにまで浸透しているのかと実感。マーチャーシュくんの通う私立の小学校では課外活動が充実しており,週に3回柔道を習うだけでなく,合唱を週に1回,ギターを週に2回,水泳を週に1回習っているのだそうだ。ほかにもヒップホップや芝居を習うこともできるというから驚きだ。
 子供部屋を紹介してもらったあとは,ハンガリーの家庭料理グヤーシュをごちそうになった(写真)。グヤーシュはパプリカで赤く色づけしたスープに日本の肉じゃがを入れたような優しい味わいだった。しかし,普段の夕食はサラダとパンなどで簡単にすますことが多いという。コヴァーチさん夫婦は共働きのため,手の込んだ料理をつくることができないためだ。妻のビクトリアさんは37歳で出産後,3年で旅行会社に復職したという。ハンガリーでは晩婚化が進み,経済事情から子供は1~2人という家庭が一般的なのだそう。共働きの家庭も多いという。

 ヨーロッパらしい街なみのなかに,アジアとのつながりを感じさせる興味深い国ハンガリー。その魅力が少しでも伝われば幸いだ。