〈帝国書院 取材班〉
 2011年9月上旬,私たち取材班は,トスカーナ地方南部のグロセット近郊で農園を営むベンナーティ(Bennnati)家にお邪魔した(写真①)。もともと湿地だったこの地方は1900年代に大規模な干拓が行われ,以来農業が主たる産業となっているという。ベンナーティ家の農園は個人経営の規模ではあるが,ぶどうやオリーブ,小麦などの作物のほか,ニワトリやウサギなどの家畜も飼育している。9月は真夏に収穫を迎える小麦やトマトには遅く,10月ごろ実を落とすオリーブには少々早い時期であるため,まずは旬のぶどうを見せていただいた。
 ぶどう畑は約10mに7本の間隔で整然と列をなしている。当主のレモさんが慣れた手つきで木からぶどうを採るようすを見せてくれた(写真②)。こちらのレモおじさん,昔気質のいささか頑固な御仁で,その前評判を聞いていた私たち取材班は,写真のモデルなんてしてくれないのではないかと心配していたのだか,渋い顔を無事にカメラにおさめることができた。収穫は近所の人も手伝って早朝から開始し,その日のうちにワイン用の仕込みまで行うそうだ。ぶどうは甘いとアルコール度が高くなり過ぎてしまうので,赤に白を混ぜて調整するという。
 庭の裏手にまわると,乾いた風にオリーブがなびいていた(写真③)。収穫は雨の日を避け,はしごを使って手摘みする。この地方のオリーブは1980年代の冷害による被害を受け枯れてしまったため,現在は写真のように若い木が多いが,イタリア南部のプーリア州では樹齢500年を数える巨木が見られる(写真④)。オリーブの実は,若く緑色のものをオリーブ漬けに,熟して黒くなったものをオイルにして料理に使用する。
 イタリア料理に欠かせないもう一つの食材 トマトの取材は,後日,プーリア州のラピエトラ(Lapietra)兄弟農園会社を訪ねた。政府の融資を受けて起業した会社で,社員は地元民のみを採用している。温室でオランダの技術を導入して栽培しているため,多種多様なトマトを年中収穫することができる(写真⑤)。トマトの苗木は栄養をしみこませたスポンジに植え,収穫はレールを使って効率よく行われる(写真⑥)。
 
 ぶどう・オリーブの取材が終わり,生地からつくったパスタとオリーブソース,自家製のワインで乾杯すると(写真⑦),頑固一徹のレモおじさんの顔にも,はにかんだ笑顔がこぼれた。楽しく食卓を囲んだ後の別れは淋しい。帰途,再会を約し手を振った車窓からは,オルチャ渓谷の雄大でのどかな景色(写真⑧)が見えていた。
 
 
ベンナーティ家と取材班   ぶどうの収穫
 
トスカーナ州のオリーブの木   プーリア州のオリーブの木
 
トマトの収穫   レールを活用したトマトの収穫
 
ワインとパスタの昼食   オルチャ渓谷
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