〈文責:帝国書院 本田智比古〉
 2017年7月から8月にかけて,石油依存からの脱却を進めるアラブ首長国連邦(以下,UAE)に小学生の息子2人を連れて訪問し,写真や動画の撮影を行った。訪れてわかったのは,現在でもあちらこちらで高層ビルや巨大な人工島の建設が進んでいて,まさに変化の過程なのだということである。今回は,10年後にはさらなる変貌を遂げているであろうアブダビやドバイの,2017年現在の姿を紹介していきたい。
 
動画1
 
 
写真1 アブダビに見られる街路樹   写真2 アブダビ最大のモスクと撮影担当
●乾燥した気候のアブダビとその都市景観 動画1
 真夏のUAEを訪問して痛切に感じたことは,「暑い!」ということである。北回帰線のほぼ直下に位置するUAEでは,この時期の気温は40℃をこえ,私たちの滞在中にも50近い最高気温を記録していた。さらに沿岸部のアブダビやドバイは海からの湿気で湿度も高く,蒸し風呂のような状態になる。明け方に外でカメラを構えると,あまりの湿度にレンズが曇ったのには驚いた。しかし沿岸部では上昇気流が発生しにくいため,この湿り気のある空気が降水に結びつかず,都市部を少し離れるとすぐに砂漠が広がっている。ちなみにこの空気はオマーンとの国境付近にある山脈にぶつかり,ようやく降水をもたらす。その降水が地下水となり,内陸部にオアシスが形成されてきた。内陸の都市アイン(Al ‘Ayn)も水に恵まれたオアシス都市で,UAEでポピュラーなミネラルウォーターにその名前が使われている。
 私たちは最初にUAEの首都であるアブダビを訪問した。ドバイと比べると,オイルマネーに支えられて堅実に都市がつくられてきた印象のあるアブダビであったが,近年は観光業等にも力を入れている。訪問した際もとくに中心部周辺の島々が,リゾート施設やルーヴル美術館別館などの施設の建設ラッシュにわいていた。
  アブダビで一番驚いたのは,砂漠の気候下であるにもかかわらず,緑が多いことである。動画からもそれが確認できるかと思う。これは,「UAE建国の父」ともよばれる前アブダビ首長兼前大統領のシェイク・ザイードが,オイルマネーを都市環境整備にも回してきたためだという。ただ,降水がほとんどない地域でこの緑を維持することは大変で,立木などに近づいて根元をよく見ると,点滴灌漑用のホースを見つけることができる。散水に使われているのは海水を淡水化した水で,膨大なコストがかかっている。なお,街路樹で多いのは,乾燥に強いなつめやしであった。なつめやしの実はデーツとよばれ,中東の貴重な食料である。私たちもデーツを試食したが,若い生のデーツは渋柿に似た渋みがあり,成熟するほど干し柿のようなまったりとした口当たりと甘さを感じた。

●建設ラッシュにわくドバイと外国人労働者 動画2 動画3
 アブダビでも高層ビルの多さに驚いたが,ドバイはさらに高層ビルが林立し,巨大なショッピングモールや世界最大の水槽がある水族館,さらには屋内の人工スキー場までそろった観光都市であった。都市の発展に合わせ,空港と中心部を結ぶメトロ,ヤシの木の形をした巨大な人工島パーム・ジュメイラの中心部を走るモノレール,ドバイの一大ビーチスポットに2014年に開通したトラムなど交通網の整備も進んでいる。私たちはメトロとモノレールに乗車したが,どちらも無人運転であり,最前席や最後尾では近未来都市のような景観を目の前で楽しむことができた。
 モノレールの走るパーム・ジュメイラは,高級ホテルと高級分譲住宅が立ち並ぶ人工島であるが,動画にあるとおり現在も建設ラッシュが続いており,途中駅も建設中であった。昼になると50近くになるドバイの建設現場では,さすがに昼の作業はやっていないだろうと思っていたが,どの現場でも人々が炎天下のなか働いている。ただし,そこで働いているのは100%外国人労働者である。UAEは,人口に占める外国人の割合が9割近い国で,その大半が出稼ぎの外国人労働者である。私は,ホテルの清掃係やタクシー運転手など,出会った人々には必ず出身地を聞くようにしていたが,スーパーマーケットのレジをやっていたフィリピン人の女性以外はすべて南アジア出身者であった。出身都市はインドのムンバイやケーララ州,パキスタンのカラチなど多岐にわたっていた。統計的にもインドやパキスタン,バングラデシュなどの南アジアからの労働者が多いようである。彼らは家族を自国に残し,給料のよいUAEに出稼ぎにきている。とはいえ,1割しかいない自国民(エマラティ/エミレーツ)の給料とは はるかに開きのある安い賃金で働いており,強烈な格差社会であることを実感した。今回は子供2人を連れての旅であったが,彼ら外国人労働者の子供を見る目が温かく,さまざまな場面で助けられた。自国に残した家族を思う心がそうさせているのではないかと,想像せずにはいられなかった。
動画2
   
動画3
 
写真3ドバイ郊外の砂漠とラクダ体験
ル−マニア