〈帝国書院 取材班〉
●紅茶農園と従業員たちの暮らし
  ~ヌワラエリヤ~

 スリランカといえば紅茶“セイロンティー”を思い浮かべる人は多いであろう。もちろん現地でも,山の斜面につくられた茶畑で茶摘みをする女性たちの姿はおなじみの光景である。広大な茶畑の中から良質な茶葉だけをすばやく摘み取る彼女たちの手さばきに,私たちは思わず目を奪われた(movie1)。
 今回私たちは,スリランカ南部に位置するヌワラエリヤという町にある,ペドロ農園というところを取材した。農園に併設した工場(写真写真1)では,茶葉の乾燥から発酵までを分刻みのスケジュールで行い,入念なテイスティングによる厳しい品質チェックを重ねた,こだわりが詰まった茶葉を10種類ほど製造している(写真写真2)。ペドロ農園の紅茶は国内外問わず広く親しまれており,日本の大手飲料メーカーでも使われているそうだ。
 東京ドーム約110個分というけた違いの広さを誇る農園の敷地内には,従業員とその家族の住居や,彼らが利用できる病院(写真写真3),行政代行センター,保育園(写真写真4),小学校などがあり,わざわざ山をおりて街に出向かなくても済むようにできている。スリランカがイギリスの植民地だった時代は,現在のように従業員たちが不自由なく生活できる環境は考えられなかったが,完全に独立した1972年以降,労働組合や農園出身の政治家などによる地道なはたらきかけが実り,このような生活が確立されたのだ。
動画1
 
紅茶工場内部   紅茶の種類
写真1 製茶工場内部   写真2 茶葉の種類
医療センター   紅茶農園内の保育園
写真3 病院   写真4 保育園

●町全体が世界遺産である美しい町
 ~キャンディ~

 大都市コロンボから中央部に向かって3時間ほど車を走らせた丘陵地帯に,スリランカ第二の都市キャンディがある(写真写真5)。ここは,イギリスの植民地となる直前までキャンディ王国の最後の都があったところで,町全体が世界文化遺産にも登録されている。また,デートを楽しむカップルが集まるキャンディ湖(写真写真6)を囲むようにして高級ホテルや市場,おしゃれなカフェなどが並び,スリランカの代表的な観光スポットとしても有名である。
 キャンディ郊外にあるペラデニヤ駅にも足を運んでみた(写真写真7)。この駅は,約150年前にイギリス人によって茶葉を運搬するための貨物駅として建てられたが,現在ではおもに現地の人たちの通勤や通学で使われている。ホームの看板にもあるように,スリランカの公共施設ではシンハラ語,タミル語,英語で表示することが一般的だ。予定時刻から遅れること30分,ようやく到着を知らせるアナウンスが響き,ブルーの電車がゆっくりとホームに入ってきた(movie2)。こちらの電車は1等から3等まで分かれていたが,どの車両も扉があいたまま走っているうえ,電車からホームまでの高さがかなりあるので乗り降りするのが少々不便そうであった。
 また,伝統舞踊であるキャンディアンダンスも興味深いmovie3。キャンディ王朝時代に宮廷内で踊られていた演目を中心として,現在では各地方の民族舞踊も取り入れたさまざまな演目を公民館のようなホールで見ることができる。会場内に低く響き渡る笛で開始の合図を告げると,きらびやかな衣装をまとったダンサーたちが次々と華麗な舞を披露していく。例えば,ろうそくを持った女性たちがブッダに祈りをささげるようすを表した踊りや,戦争へ行くシンハラ人戦士を表した力強い音楽とアクロバティックな技が見られる踊りなど,どれもスリランカの歴史を表現している。クライマックスは,火を用いたパフォーマンスである。火には悪霊を追い払う意味があるらしく,パフォーマーが火を舌でなめるようすを何度も見せてくれたが,やけどをしないのか見ているほうがハラハラさせられた。会場内は外国人観光客が多く,熱心にカメラをかまえ,時折歓声がわき起こるなどパフォーマンスは大いに盛り上がっていた。
キャンディの街並み   夕暮れ時のキャンディ湖
写真5 キャンディの街並み   写真6 夕暮れどきのキャンディ湖
ベラデニヤ駅    
写真7 ペラデニヤ駅    
 
 
動画3
●世界遺産の仏教寺院を訪ねて 〜キャンディ,ダンブッラ〜
 スリランカでは仏教の歴史が古く,現在も国民の約7割が仏教徒である。そんなスリランカ仏教の聖地の1つであるのが,キャンディにある仏歯寺だ(写真写真8)。その名の通り,4世紀ごろにインドから持ち出された“ブッダ”の“犬歯”がまつってある。インドの追手がどんなに来ようとも,人々はブッダの遺物をなんとかスリランカに残したいという一心でこの犬歯を持ち出したそうだ。その熱い気持ちは現在にも引き継がれており,1日3回ある礼拝のときには,仏歯がまつってある部屋の前(写真写真9)に多くの参拝者が押し寄せ,熱心に祈りをささげている(写真写真10)。
 また,キャンディから70㎞ほど北にあるダンブッラという町は,紀元前1世紀から増改築がくりかえされた石窟寺院で有名だ。外観の岩山はなだらかな傾斜になっているが,これは内部への雨漏りを防ぐために削られたものである(写真写真11)。中に入ると5つの石窟に分かれており,美しい仏像や壁画などがそれぞれ収められている。とくに,2000年以上前につくられた最も古い第1窟では,約14mもある横たわった涅槃仏に圧倒され(写真写真12),第2窟ではブッダが悟りを開いたときのようすを描いた大きな壁画が印象的である(写真写真13)。
仏歯寺の外観   仏歯寺(開帳前)   開帳を待つ人々
写真8 仏歯寺の外観   写真9 仏歯寺(開帳前)   写真10 開帳を待つ人々
石窟寺院の外観   第1石窟寺院の仏像   第2石窟寺院の壁画
写真11 石窟寺院の外観   写真12 第1石窟寺院の仏像  
  写真13 第2石窟寺院の壁画  
 今回の取材期間は5日間と短かったため,スリランカのごく一部しか紹介できなかったが,この国には見どころが満載であることが少しでもお伝えできていれば幸いである。

スリランカ地図