〈帝国書院 取材班〉
 2016年9月,「風と氷の大地」とよばれる南米パタゴニアを取材した。日本のほぼ真裏に位置するパタゴニアで,風と氷河がつくりだす神秘の大自然に迫る。
靴底に取り付けたアイゼン   ペリト・モレノ氷河と取材班
1 靴底に取りつけたアイゼン
 
2 ペリト・モレノ氷河と取材班

●氷に包まれる氷河トレッキング  movie1
 アルゼンチンの首都ブエノスアイレスから空路で南におよそ3時間,パタゴニア取材の拠点となるカラファテに到着。このカラファテから最初に向かったのが,ロスグラシアレス国立公園内に位置するペリト・モレノ氷河である。
 まず取材班が挑戦したのは,長さ約40㎞にも及ぶモレノ氷河の末端を歩く氷河トレッキングである。ペリト・モレノ号と名づけられた小さな船で湖を進むと,青白く光るペリト・モレノ氷河がだんだんと近づいてくる。靴底にアイゼン(靴底に装着する鉄製の登山用具)を取りつけ,英語とスペイン語のグループに分かれておよそ2時間の氷河トレッキングが始まる。氷河は小石程度の大きさの氷の粒が集まってできており,想像していた以上にかたかった。そのため,アイゼンが氷河に刺さるザクザクという心地よい音が響く。氷河を流れる融水はこれまでに見たことがないほど透き通っていた。

●圧倒的な存在感!ペリト・モレノ氷河全景  movie2
 地球温暖化によって後退している氷河が多いなかで,ペリト・モレノ氷河は現在も成長を続ける数少ない氷河の一つとして注目を集めている。展望台からペリト・モレノ氷河の全景を見ると,押しつぶされるのではないかと錯覚するほどの迫力に圧倒される。
 氷河の迫力に圧倒されていると,さらにゴォォォーッという雷鳴にも似た大きな音に驚かされる。この爆音の正体は,氷河が崩落して水面に衝突した際に生じる音である。氷河の崩落は,その内部を流れる水の圧力によって起こるため,季節や気温に関係なく発生する。取材を行った9月は南半球では冬であったが,氷河の崩落を楽しみにする観光客の姿もあった。

●無数の氷山が浮かぶ氷河クルーズ  movie3
 次に訪れたのは船から氷河や氷山を見ることができる氷河クルーズ。アルヘンティーノ湖には,崩落した氷河が小山のように浮かぶ氷山がいたるところに見られる。氷河湖であるアルヘンティーノ湖は,氷河が岩山を削った際に生じた岩石の微粒子が水中に浮いており,湖の水は白くにごっている。白濁した湖に無数の氷山が浮かぶ光景は美しく,多くの観光客のため息を誘った。
 クルーズの最後に向かったのはスペガシーニ氷河。この巨大氷河は複数の氷河が合流して形成されている。氷河の表面にみえる黒い線は,氷河によって削られた土砂が溜まってできたもので,それぞれの氷河が衝突している地点を示している。この巨大氷河からの崩落がクルーズの最大の見所である(02:02)。

パタゴニアの草原と取材班  
4 パタゴニアの草原と取材班
 

●見渡す限り広がる荒涼とした大地 movie4
 降水量が少なく年間の気温も低いパタゴニアでは,イネ科の植物を中心とした短草草原が広がる。とくにコイロンというイネ科の植物が埋め尽くす地域は,日光に反射して金色のじゅうたんが広がっているようにも感じられる。高台では台風並みの強風が吹き,直立するのが難しい。露出した岩山には,氷河の侵食によるマーブル模様がみられる。それは,かつてこの地域にも氷河が広がっていたことを意味する。
 パタゴニアは牧羊がさかんだが,近年は,降水量が増加傾向にあることから,それに合わせて牛の放牧も増えつつある。羊や牛のほかに,リャマに似たグアナコ,大型の陸鳥であるレアなど,アンデス・パタゴニアの固有種も数多く生息している。

●ガウチョと羊の一日 movie5
 パタゴニアでは,広大な草原を利用した牧羊がさかんである。多くの羊は羊毛用のメリノ種だが,食用の羊も飼育されている。今回,朝と夜は,ガウチョが食用の羊を誘導するようすを,昼は羊毛用の羊が大草原で放牧されているようすを取材した。
 夜間柵の中に集められた羊は,夜が明けるとガウチョの誘導によって広大な草原にはなされる。草原はあまりにも広いため,誰の土地でもないように見えるが,実はその大部分が有刺鉄線によって区切られた私有地で,羊はその土地の中で飼育されている。
 昼の間,ガウチョは馬に乗りながら,病気の羊はいないか,野生動物に襲われている羊はいないかを見てまわる。パタゴニアの大地には大小さまざまな岩石がころがっているため,バイクよりも馬の利便性が高いそうだ。

土地を区切る有刺鉄線  
3 土地を区切る有刺鉄線