〈帝国書院 取材班〉

 2014年9月,帝国書院取材班はアメリカ合衆国中部・南部の農業を中心に取材,写真撮影を行った。

●センターピボットとフィードロット
 教科書や資料集でよく目にするフィードロットの写真は地上撮影のものが多く,空撮のものはあまり見たことがない。どの程度の大きさのものなのか,周囲はどうなっているのかなど判別がつかず残念である。できれば全貌のわかる空撮写真を掲載し,学習者に伝えたいものである。フィードロットがよく見られるテキサス州の北部の町,ラボックでセスナをチャーターし空撮に臨んだ。空港を飛び立つと眼下はおびただしい数のセンターピボットで覆われ,地平線の彼方まで続いていた。フィードロット(写真①)は,しばらく飛んでも目に見える範囲にやっと一つ確認できるかどうか程度の割合で点在していた。これだけ広い農地に囲まれていれば,飼料不足に悩まされることはまったくなさそうだ。さて,気になるのは大きさであるが,一つ一つ地上に降りて聞いて回るわけにはいかない。幸いなことに,このあたりはタウンシップ制の影響のためか1マイル四方に区画され,センターピボットはその中に四つ入るように並んでいる。写真のフィードロットはセンターピボット1個半分なので約800m×1200m と推定できる。牛の数はどうだろうか。参考までに私たちが地上で取材したフィードロット(写真とは別の場所)は,面積がほぼ倍で68,000頭の牛を肥育していた(写真②)
 アメリカ合衆国には約2万の空港がある。それだけあれば,セスナのチャーターには不自由しそうにない。現に1990年代には日本国内からでも容易にチャーターできた。しかし,9.11以降は,状況が一変し日本国内からのチャーターはハードルが高くなった。しかも,セスナなら何でもよいというものではない。飛んでみたら窓の外の主翼が邪魔で写真が撮れなかったというのでは話にならない。窓の上に主翼がついているタイプを探す必要がある。今回は滞在していたアマリロには適した機体がなく,やむなく車で200km南下し,ラボックという町でセスナに乗り,再びもとに戻って来るという撮影となった。しかも,このあたりの標高は1000mをこえており,くもりと思っていると,雲が降りてきて霧になることもある。そうなるとセスナは飛んでくれない。掲載している写真は3日間の雨,霧,くもりを耐えて待ったかいあっての1枚である。

●ポートエレベーター
 1997年にミシシッピ川河口付近のポートエレベーターを撮影したことがある。穀物メジャー最大手のカーギル社が誇る巨大なエレベーターだ。ポートエレベーターの空撮写真は当時,国内ではなかなか手に入らなかった。しばらく教科書や資料集にのせていたが,さすがに色あせてしまった。今回,新しいエレベーターも含め,再び,そのエレベーターを撮影することにした。写真③が1997年撮影,写真④が今回撮影したもので,奥の畑が工場に変わってはいるが建物そのものには大きな変化は見られない。今回はニューオーリンズをヘリコプターで飛び立ち,ミシシッピ川沿いに70kmほど上流まで行って帰ってくるルートで撮影した。蛇行した河川には大型船や (はしけ)(写真⑤)が行き交いにぎわっている。両岸には,ポートエレベーターがいくつも確認できた。写真⑥は,なかでも比較的大規模のものである。

●イリノイ州の農場
  イリノイ州の農家,エリックさんを訪ねた(写真⑦)。アメリカ合衆国の農業といえば大規模な企業的農業を連想しがちだが,実際は家族経営が全体の9割を占めている。エリックさんの農家も4人家族で雇い人はいない。海抜230m,農地は680エーカーで,このあたりでは平均的である。夫婦2人子ども2人の家族だと暮らすのに最低500エーカーの土地が必要だそうである。エリックさんは,GPS付きで自動運転もできる大型トラクター(30万ドルで購入)を所有している(写真⑧,⑨)。この自慢のトラクターを使って,とうもろこしと大豆,ミスカンタス(すすきの一種でバイオエタノール用)を栽培している。とうもろこしと大豆は1年ずつ輪作するものと思っていたが,エリックさんは,とうもろこしを2年,大豆を1年のサイクルで栽培している。理由はとうもろこしのほうが収益が高いからだそうである。エリックさんの家は,何代も続く農家である。しかし,土地は自分のものではなく,借地である。ほとんどの農家は借地で農業を営んでいる。最近では15㎞程度離れた土地へ通勤する農家も増えてきたそうである。あとつぎのいなくなった農家が借地を手放し,希望する人が多少離れていても借りるようになったからである。
 エリックさんの1年の農作業は3月にはじまり,農地を耕し肥料をまく。4・5月に種を植え,6・7・8月は育つのを待ち,9月から11月にかけて収穫する。収穫した穀物の半分は売り,残り半分は保管し,12月,2月,5・6月に分けて売る。後になればなるほど高く売れるのだそうだ。しかし,半年は農閑期である。その間は何をしているのだろうか。多くの農家は副業をもっている。人により,副業はまちまちだそうだがエリックさんは,海外の農家の視察を受け入れたり,周辺の農家の海外視察の面倒を見たりして,収入を得ているそうである。確かにいろいろな統計を集めており,おたずねする質問には統計データをもとに的確にお答えいただけた。9月に訪問したので,つい,今年は豊作かどうかを聞きたくなった。さっそく,たずねてみると今年は豊作だと笑顔をもらした。ところが,2年前の2012年は干ばつに見舞われたという。稼ぎ頭のとうもろこしは,売り上げよりも借地代,肥料代などの経費のほうが上まわり,1エーカーあたり226ドルの赤字,大豆は95ドルの赤字,ミスカンタスだけが181ドルの黒字だったそうである。これでは破産してしまいそうであるが,かけてある保険で1エーカーあたり221ドルがもどってきたそうである。政府の手厚い保護策があるのでたいへん助かるという。
 エリックさんは,なぜミスカンタスの栽培をしているのだろうか。かつて,国内では飼料用のとうもろこしの生産が大半を占めていたが,2005年頃からエタノール用が増えはじめ,現在は4割を占めているそうである。エリックさんは,大学と共同でミスカンタスを栽培している。ミスカンタスは単位面積あたり,とうもろこしの1.6倍の熱量のエタノールが生成できるので効率がよい。エリックさんはバイオマスエネルギーの研究で,2011年にオバマ大統領から「Champions of Change」という賞を受賞した。この賞は地域社会に変革をもたらす取り組みを行っている民間人を表彰するものである。

●バイオエタノール工場の見学
  バイオエタノール工場を訪ね,工場長のケントさん(写真⑩)にご案内いただいた。見学はできたが,撮影はほとんど許可されず,ここで紹介できないのが残念である。印象に残っているのは,とうもろこしの発酵にともなう何ともいえない甘ったるいにおいである。エタノールを抽出した後の絞りかすはそのまま捨ててしまうのではなく家畜向けの飼料として生まれ変わる。つくられた飼料はおもに中国向けの輸出用とされている。興味深かったのは,色が薄いと中国では人気がなく買い叩かれてしまうので,数年かけて濃い黄色になるよう製造工程をくふうしてきたそうで,それがケントさんの自慢であった。倉庫には,つくられた飼料が山のようにつまれていた(写真⑪)。
  この取材の成果は,『地理・地図資料』2015年度1学期号『中学校社会科のしおり』2015年度1学期号弊社HPでもご覧いただけます。また,教科書,資料集,調べ学習用図書などにも掲載いたしますので,ぜひ,ご期待ください。

 
 
フィードロット   68,000頭の牛を飼育

見渡す限り広がるセンターピボットとその中のフィードロット
 
カーギル社のポートエレベーター(1997年)   カーギル社のポートエレベーター(2014年)
 
ミシシッピ川を行き交う艀   ミシシッピ川沿いのポートエレベーター

ミシシッピ川を行き交う船や艀
 
イリノイ州の農家,エリックさんと取材班   大型トラクター
   
農業機械を説明するエリックさん    

インタビュー(字幕はインタビューの要点をまとめたものです。英語の音声と字幕内容は異なります)
 
バイオエタノール工場のケントさん   エタノール抽出かすで飼料を生産する

インタビュー(字幕はインタビューの要点をまとめたものです。英語の音声と字幕内容は異なります)