〈写真・文 福島県立二本松工業高等学校 松浦 健人〉

 インドとパキスタンは独立以来3度も戦争していて,その対立からともに核保有国になったという経緯がある。両国の国境線はおよそ550kmの長さがあるが,その間で行き来ができる唯一の国境がパキスタン・ラホールとインド・アムリットサルの間にある。今回は,ラホールからアムリットサルへの旅をご紹介したい。
 ラホールは,かつてムガル帝国の首都であったこともあり,アクバル大帝が建設を始めて6代目のアウラングゼーブ帝の時代に完成したラホール・フォート(写真①)などが世界遺産に登録されている。
 2014年1月,早朝の飛行機でラホールに着いた私は,たび重なる料金交渉の末,タクシーやチンチー(オート三輪車)を乗り継いでラホール・フォートに到着した。インドで見たほかのムガル建築同様,かつての帝国の栄華がしのばれる建造物が,広大な敷地内に整然と並んでいた。また,この遺跡をよりいっそう輝かせているのが,パキスタン人の人懐っこさと優しさである。1人でいるよりも現地の笑顔に囲まれている時間のほうが圧倒的に長く,観光ができなくなるほど写真撮影(写真②)と日本の話をせがまれる。「日本の宗教はどのようなもの?」「日本にあるすばらしい科学技術は何?」「日本はなぜ豊かなんだい?」など,好意的な質問が多く,私としては「日本はアジアから好かれている」との思いをさらに強くした。日本にいてはパキスタンの情勢はネガティブなことしか入ってこないが,パキスタン人は日本を肯定的にとらえ,下心なしでやさしく接してくれるという,イランと同様に現地に行かなければわからないパキスタンの良さが実感できた。
 ラホール・フォートの前にあるのが,アウラングゼーブ帝がつくったバードシャヒー・モスク(写真③)である。これはパキスタンで最大級のモスクであり,一度に10万人を収容することもできるらしい。イスラーム至上主義を唱えてムガル帝国最大領土を実現したアウラングゼーブ帝は,今なおイスラーム国家・パキスタンのなかで人気がある。ここでは修学旅行の高校生に囲まれ,モスクの写真よりも彼らの写真を多く撮影した(写真④)。
 その後,ラホールから東へ24kmの場所にある国境へと向かった。国境地帯では両国の国旗収納セレモニーが日没時に毎日行われ,両国国民による応援合戦が観光名所化している。そこは,さながらスポーツのスタジアムのように,国境線を挟んで観客席が整備されていた(写真⑤)。セレモニー開始まであとわずか。徐々に客席も埋まり始めているなか,客席の中央を貫くインドへと続く道路を歩いて国境を渡った(写真⑥)。これからセレモニーを行う両国兵士たちに何度もパスポートをチェックされたが,出国するパキスタン側の兵士からは,「なぜパキスタン側で応援しないんだい」と悲しい顔で質問され,入国するインド側の兵士からは,「しっかり応援してくれよ」と得意げに言われた。われわれ外国人は特等席に招待されるが,これは,「こちら側にはこれだけ外国人が見に来ているぞ」という相手側への自慢になっているようだ。
 インド側の入国審査場で入国手続きをすませたあと,急いで国境に戻ると,会場に入りきれないほどの人であふれていて,両国の応援の声も熱を帯びていた(写真⑦)。このセレモニーは毎日行われているにもかかわらず,熱心な現地人のためにつねに超満員で,戦争するほど仲の悪い両国民は,互いにその雰囲気を楽しんでいるように見えた。パキスタン側は,「アッラーフ・アクバル!(アッラーは偉大なり)」,インド側は「ヒンドゥスタン・ジンダーバード!(インド万歳)」を繰り返し斉唱している。兵士たちが何度も示威行為を行い,観客の盛り上がりが最高潮に達した後,日暮れとともに両国国旗は収納され(写真⑧),セレモニーは終了した。
 インド側の国境の街・アムリットサルには,シク教の聖地・黄金寺院(写真⑨)がある。われわれ日本人がインド人をイメージする際,おそらく,「頭にターバンを巻いて豊かな髭をたたえている」というイメージがあると思う。しかし,これはインド人全体の約2%(約2300万人)にすぎないシク教徒の姿である。
 黄金寺院には,絶えず巡礼者の姿がある。また,この施設を管理,運営するためのすべてはシク教徒の献身的な活動によって支えられている。そして,無料で食事がふるまわれており(無料で宿泊することも可能),ターバンを巻いたシク教徒によって調理,配膳,片づけなどが行われていた(写真⑩)。
 黄金寺院の本殿は中央の池の上にあり,白い橋を渡って行くことができる。入口をくぐって聖所に入るのに,上るのではなく,階段を下るようになっているのは,身を低くして入るというシク教の謙虚さを表しているらしい。そして,これらすべては異教徒にも開放されているというのも,もう一つのシク教の象徴である。
 パキスタン・ラホールからインド・アムリットサルへ。古来より同じ地域として歴史を歩んだが,現在では間に国境線が引かれたこの地域にはイスラームやシク教によって教化された古き良き伝統がそれぞれに息づいているのと同時に,国境地帯の熱狂に代表される両国の現在の関係も垣間見ることができる。
 非常にお勧めの旅行ルートである。

 
 
ラホール・フォート   ラホール・フォートで出会った人たち
 
バードシャヒー・モスク   修学旅行の高校生
 
国境(パキスタン側)   国境
 
国旗収納のセレモニー(インド側)   日暮れとともにセレモニーは終わる
 
シク教の聖地・黄金寺院   寺院の中,食事風景